英語大百科〜ことばの海へ〜

監修者よりのご挨拶

ご挨拶

ことばの世界は実に広々とした空間です。広大無辺と言ってもよいでしょう。

英語の場合、抱える単語の総数は100万を優に超えます。気が遠くなるような数ですが、英語話者が日常的に使っている語が莫大だというわけではありません。

大抵の人は3,000語ほどの範囲でやり取りしていると予測されています。

では、外国語として学ぶ私たちも3,000語くらいを知っていれば英語が使えるのでしょうか。

いえいえ、事はそれほど簡単には運びません。


仮に平均的な英語話者が毎日3,000語くらいでやりくりしているとしても、彼らが特定の3,000語しか知らないという意味ではありません。

彼らの背後には何万という交代要員、つまり援軍となる語が控えているのです。

それだけではありません。

彼らにとってgo, goes, went, gone, goingは同じ語の変化形に過ぎず、1語であって5語ではないのです。

つまり、彼らの3000は単なる3,000語ではなく、それを使いこなす運用力に裏打ちされた強力な3,000なのです。

この点に気づけば、英語をコミュニケーションの道具として使うために何をどうすればよいかがおぼろげながら見えて来ます。


「英語大百科」は、上記の視点に立って、運用力を備えた真の単語力、真の英語力を獲得したいと願う人のために用意されたものです。

flour(小麦粉)、flower(花)、pasta(パスタ)などを見出し語とする百科事典形式で、170語前後の簡単な解説の中にさまざまな情報が盛り込まれています。

これらの項目は配信の進行とともに随時更新され、最終的には言葉通りの大百科に成長します。


今、「成長」という言葉を使ったのは、この計画がみなさんと共に成長していくように設計されているからです。

見出し語数は時を追う毎に増えていき、単語間の連携もそれに呼応して一層密になります。

参加されるみなさんの単語力は質量ともに見違えるほどに変化するはずです。

ここで、みなさんに小さなお願いがあります。

この壮大な計画の達成にみなさん自身の「好奇心」と「探求心」を提供して欲しいのです。

この2つの「心」を持って次の2つの「こと」に挑戦して欲しいのです。


● 単語は4000くらい覚えれば十分だ、この単語は試験には必要ない、文法より会話文を暗記すればよい、などといった思い込みを一旦脇に置いて、広く自由なことばの海に船出すること。

● 単語を個別に記憶するのではなく、全ての単語が互いに結び合う壮大なあなた専用のネットワークを自ら築きあげること。


何だか大変そう、と一瞬たじろがれた方も心配には及びません。

みなさんに何かをしろと求めるわけではないのです。

というより、みなさんは何もしなくてよいのです。

ただ、好奇と探求の心を持ってことばの海を旅すればよいのです。

flower, flour, pastaのような語を簡単すぎると退けるのではなく、まずは扉の向こうへ一歩を踏み出して下さい。

えっ、と思う出会いがきっとあなたを迎えてくれるはずです。

そしてその出会いは、今のあなたの英語世界に思いもかけない変化をもたらすことになるでしょう。


単語ネットワーク作りについて少し触れておきましょう。

今述べた方向付けは、「語の意味」=「語の使い方」という原則に基づいています。

言い方を変えるなら、語は実際に用いられて初めてその意味が確定するという考え方です。

次の例を見て下さい。

I'll read the book. その本を読みます

I'll book a table. 席を予約しておきます

もうおわかりですね。bookは、他の語と無関係に行動するわけではありません。文中におけるbook自身の位置、およびreadやtableの存在があって初めてその意味が定まるのです。

「語を用いる」とは「語を他の語と組み合わせる」ことであり、それはそのまま文法の鍛錬でもあるのです。


ネットワーク作りには、文法力の養成とは別に、もう1つのねらいがあります。

単語間のつながりは例えて言えば透明な糸のようなもので、存在しているが目には見えません。

ネットワーク作りはそれを可視化する作業であり、重ねれば重ねるほどネットワークの密度も強度も広がりも増していきます。

その一端を次の4語で説明しましょう。

wine(ワイン) – vinegar(酢) – eager(熱心な) – edge(刃先)

この4語を関連づけて説明できる人は、すでにしてprofessionalです。その人のネットワークでは4語が明確に位置づけられているだけではありません。4語の周りにはさらに別な仲間があり、その先にはさらなる輪が広がっているはずです。


ネットワークとはこのようなものとお考え下さい。

語と語をつなぐ糸は目に見えませんから、たぐり寄せるには多少の時間がかかるでしょう。

ネットワーク作りは、一朝一夕というわけにはいかないかも知れません。

しかし、ことばの旅はそれを補って余りある楽しみに満ちています。

wineからedgeへの道のりは遠く見えて実は意外に近いのです。


最後に一言。

「英語大百科」は、それ自体緻密に編まれた学習システムであり、みなさんの学びを手助けする案内人でもあります。

見出し語は、さしずめ海に浮かぶ無数の島。

その周りは、冒険と不思議に満ちた「ことばの海」。

船を降りて島内を探検するもよし、新しい発見を求めて海に潜るもよし。

乗船も下船も自由、島が気に入れば長期滞在も自由です。

気分の趣くままに振る舞って下さい。

旅を続けている限り、そして好奇心と探求心を失わない限り、必ずやあなた自身の大百科が編み上がっていくはずです。


監修者識

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山田雄一郎|英語大百科監修者
ナビ1号山田 雄一郎

広島大学教育学部大学院修士課程修了。もと広島修道大学教授。主な著作:「言語政策としての英語教育」(渓水社)、「英語教育はなぜ間違うのか」(筑摩書房)、「日本の英語教育」(岩波書店)、「外来語の社会学」(春風社)、「英語力とは何か」(大修館書店)、「小学生からの英語絵辞典」(研究社)、「英単語QUEST 2000」(学研プラス)

佐伯一行|英語大百科監修者
ナビ2号佐伯 一行

英語能力テスト開発研究所(IQELT)代表。京都外国語大学専攻科修了。中学校英語教師、学習塾経営、日本英語検定協会顧問、大学非常勤講師、東京書籍顧問、IELTS公式テストセンター顧問を歴任。英語に関する各種研究会の企画運営を通して英語教育界に広く知己を得る。米国、イギリス、フィンランド、シンガポール、中国、韓国などでの学会や研究会への参加を重ねる。

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